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味覚が変わった-味覚障害-

和泉 透(いずみ とおる)先生

独立行政法人 国立病院機構 仙台医療センター
臨床研究部長

和泉 透(いずみ とおる)先生

吉川 直子(よしかわ なおこ)先⽣

地方独立行政法人 栃木県立がんセンター
緩和ケアセンター
ジェネラルマネージャーがん化学療法看護認定看護師

吉川 直子(よしかわ なおこ)先生

味覚障害は、リンパ腫の治療を始めてから2~6週後にあらわれることがあり、約6割の患者さんが経験する副作用の一つですが、治療終了後は徐々に味覚が回復することが多いといわれています。

毎日の食事が少しでも楽しくなるように、それぞれの症状に合わせた食事メニューの選択や調理の工夫をご紹介しますので、無理をしないように取り入れられるところから少しずつ試してみましょう。

国立がん研究センター がん対策情報センター:がん情報サービス「味覚やにおいの変化 もっと詳しく」(https://ganjoho.jp/public/support/condition/taste_or_smell/ld01.html)
[2024年3月閲覧]

こんな症状があらわれます

味が薄く感じる、まったく味がしない

口の中に何もないのに苦みや渋み、金属味を感じる

甘味だけがわからない

甘味を強く感じる

しょうゆが苦く感じる

何を食べても嫌な味がする

味が濃く感じる

左右のどちらかが味を感じない

砂を噛んでいるように感じる

舌に膜が張ったように感じる

食べ物の本来の味がしない

こんな症状があらわれます

※「口の中が乾いた感じがする、ざらざらする」はこちら(口腔乾燥症)を、「食べ物がしみる」はこちら(口内炎)をご覧ください。

味覚の変化は周囲の人が気づきにくい問題ですので、違和感がある場合は悩まずに医師や看護師、栄養士などに相談しましょう。食事のメニューや味付けなどについて具体的なアドバイスを受けられることがあります。

味覚障害の原因

抗がん剤を使った化学療法放射線療法によって、味を感じ取る細胞(味蕾(みらい))やそれを伝える神経がダメージを受けることが主な原因です。また、味の成分を味蕾に運ぶ唾液の分泌量が低下し、口が乾燥することにより、味の感じ方が変わることもあります。

その他、使用している薬剤によっては、亜鉛の吸収が妨げられ、亜鉛不足が原因になることもあります。

国立がん研究センター がん対策情報センター:がん情報サービス「味覚やにおいの変化 もっと詳しく」
(https://ganjoho.jp/public/support/condition/taste_or_smell/ld01.html)
[2024年3月閲覧]
厚生労働省:平成23年3月 重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬物性味覚障害, p11
(https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1s01.pdf)
[2024年3月閲覧]
国立がん研究センター看護部 編集:国立がん研究センターに学ぶがん薬物療法看護スキルアップ, p168-169, 南江堂, 2018

味覚障害のケアのポイント

味を感じやすくさせたり、味覚障害を悪化させないためのケアのポイントをご紹介します。

ポイント① メニューや味付けの工夫

それぞれの症状に合わせて味付けや食材をほんの少し工夫することで、味を感じやすくなる場合があります。
また、味付けだけでなく、食べることができたという満足感を感じることも大切です。
高血圧、糖尿病、腎臓病など他の病気を患っていて、塩分や糖分の制限を指導されている患者さんの場合、調味料の使用量を大きく変更する前に、医師とよく相談してください。

ポイント① メニューや味付けの工夫

味が薄く感じる
まったく味がしない

  • 味を濃くしてみる

塩やしょうゆを苦く感じる
金属のような味がする

  • 塩やしょうゆの使用量を減らす
  • だしや酢を利かせる
  • レモンなどのかんきつ類、ゴマや柚子などの風味を足す
全体的に食べ物を苦く感じる
  • 甘みを強くする
  • マヨネーズを利用することで苦味がマスキングされることがある
  • キャラメルなどで口直しをする
何でも甘く感じる
  • 砂糖やみりんの使用量を減らす
  • 塩味、しょうゆ味、みそ味などの濃い味付けにする
  • 酢の物、ゆずやレモンなどの酸味やスパイスを利用する
砂を噛んでいるような感じがする
  • 口当たりの悪い食材を控える
  • とろみをつけるなどして口当たりを滑らかにする
  • 汁物を添えて流し込みやすくする
水でもしょっぱく感じる
  • 調味料を加えず、だしまたは水だけで煮たりする
がん治療を専門とするメディカルスタッフからのアドバイス

かんきつ類のような酸味のあるものは、塩味が増したように感じさせます。また、だしを濃く取ったり、洋食では乳製品(バターなど)、和食では酒やみりんを使うことでコク味が増し、調味料の量を抑えることができます。
また、同じ食べ物でも温度によって味の感じ方は変わります。熱すぎても冷たすぎても味は感じにくくなるので、人肌程度の温度にしてみるのもよいでしょう。

ポイント② 香りや雰囲気も大切にする

料理は味だけではなく、シソやショウガ、すだちやレモンなどで香りを引き立てるとおいしく感じることがあります。また、雰囲気を変えると食欲が増すことがあるので、外食をしたり、ご家族や友人とともに食事をする機会を作ってみましょう。

ポイント② 香りや雰囲気も大切にする

ポイント③ 口のケアをする

・保湿する

唾液には口の中に味を広げる働きがあり、口の中が乾燥することで味を感じにくくなることがあります。リンパ腫の治療では、使用する薬や放射線の影響によって唾液の量が減ってしまうことがありますので、口の中が乾いているように感じる場合は、うがいやマスクなどで保湿し、唾液の働きを補いましょう。スプレータイプやジェルタイプの保湿剤が市販されていますので、それらを活用してみるのもよいでしょう。

・清潔にする

口の中の衛生状態が悪くなると、増殖した細菌や老廃物などによって味を感じにくくなったり、むし歯や感染症などにかかることがあります。また、舌苔ぜつたい (舌表面の白い苔状のもの)が多く付着していると、味を感じにくくなります。歯だけでなく、舌のブラッシングを欠かさず行い、清潔な状態を保つよう心がけましょう。

国立がん研究センター がん対策情報センター:がん情報サービス「味覚やにおいの変化 もっと詳しく」(https://ganjoho.jp/public/support/condition/taste_or_smell/ld01.html)
[2024年3月閲覧]
国立がん研究センター看護部 編集:国立がん研究センターに学ぶがん薬物療法看護スキルアップ, 南江堂, p168-169, 2018

ポイント④ 亜鉛を補給する

亜鉛は細胞が分裂するために必要な栄養素です。亜鉛が不足すると味を感じ取る細胞の再生が進まなくなるため、結果的に味覚障害を引き起こします。亜鉛の不足は検査で診断することができ、必要に応じて亜鉛製剤が処方されることがあります。そのほかにも、亜鉛を多く含む食材(カキやうなぎ、ゴマ、ヒジキなどの海藻類、肉類など)やサプリメントを使ってご自身で補給することもできますが、サプリメントを利用する場合には、他のお薬との飲み合わせなどの問題もありますので、事前に医師、看護師、薬剤師へ相談するようにしましょう。

江口研二 他 編集:支持・緩和薬物療法マスター がん治療の副作用対策, メジカルビュー社, p83-84, 2011
国立がん研究センター看護部 編集:国立がん研究センターに学ぶがん薬物療法看護スキルアップ, 南江堂, p169, 2018

歯科検診

口腔内には多くの細菌がいます。リンパ腫の治療によって免疫力の低下が起こると、細菌が原因となる合併症があらわれることがあります。そのため、リンパ腫の治療開始前に歯科を受診し、むし歯などの処置を受けておきましょう。また、リンパ腫の治療中も定期的に歯科検診を受けて口腔内の衛生環境を良好に保つようにしましょう。

森田達也 他 監修:緩和ケアレジデントマニュアル, 医学書院, 改訂(第2版), p183-189,2022

ちょっとした工夫で食事をおいしく楽しむことができるよう、いくつかの方法を紹介しました。たくさん食べようとせず、少しずつ盛り付けるのも工夫の一つです。ここで紹介した方法以外にも、それぞれの患者さんに合ったさまざまな対処法が考えられますので、栄養相談の機会を利用するのもよいでしょう。

対応に困った時は、遠慮せずに医師や看護師、栄養士に相談しましょう。

2024年3月現在の情報を元に作成