監修:
島根大学医学部 内科学講座 血液・腫瘍内科学 教授
鈴木 律朗(すずき りつろう)先生
PTCLはリンパ節の腫れなどから
疑われます
PTCLは多くの場合、リンパ節の腫れをきっかけとして診断されます。
診断は、腫れているリンパ節や病変を丸ごと摘出するか、一部を採取する生検を行い、採取した組織を顕微鏡で調べて、PTCLなのかどうか、またどのタイプのPTCLなのかを判断します。PTCLの診断では、生検で細胞の形や細胞表面にある特徴的なタンパク質を調べることが重要ですが、それだけでは診断がはっきりしないことも多く、症状や血液検査の結果も併せて総合的に考えます。また、病気の進行度はどのくらいか、体のどこまで広がっているかなども調べます。
病気の状態を調べる
さまざまな検査を行います
診断時や治療効果の判定時、経過をみる際には、確認する内容に応じて、以下の検査が行われます。
主な項目 | 確認する内容 |
血液検査 |
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血液細胞の数 | |
肝機能検査 |
肝臓や腎臓の機能が低下していないかどうか調べます。 |
腎機能検査 | |
LDH値 |
病気の進行度を調べたり、経過の予測に用いられます。がん細胞の量が多いとLDH値が高くなります。 |
可溶性インターロイキン-2受容体の値 |
病気の進行度を調べます。T細胞のリンパ腫では値が高くなります。 |
ウイルス検査 |
ウイルス感染症や、ウイルスが原因で生じるリンパ節の腫れとPTCLを見分けるために行います。 |
(リンパ節)生検麻酔をして、腫れているリンパ節や皮膚などの病変の全体、あるいは一部を採取する手術を行います。採取した組織を顕微鏡でみて、異常な細胞があるかどうかを調べます。 |
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免疫学的検査・遺伝子検査 |
採取した組織の細胞が、リンパ腫に特徴的なタンパク質をもっているかどうか、また、特徴的な遺伝子の異常があるかどうかを調べます。例えば、ALK陽性ALCLか、ALK陰性ALCLかを見分けるための検査が行われます。 |
画像検査 |
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CT、PET、MRI、内視鏡など |
リンパ腫がどこにできているか、全身のどこまで広がっているかを調べます。あらかじめ、がん細胞を染める薬剤を注入してから画像を撮ることもあります。 |
心エコー検査(心臓超音波検査)など |
一部の治療では心臓への負担が生じる場合があるため、心臓の機能を調べます。 |
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 悪性リンパ腫総論」
病気の経過を予測します
PTCLには、病気の経過を予測する指標があります。国際予後指標(IPI)と呼ばれるもので、これまでの患者さんのデータをもとに考えられた指標です。IPIは、年齢や健康状態、血液検査のLDH値、骨髄に浸潤しているかどうかから経過を予測するもので、治療方針を考える際の参考とされます。
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 7. 末梢性T細胞リンパ腫」
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 7. 末梢性T細胞リンパ腫」
Tsuyama N et al.: J Clin Exp Hematop. 57: 120-142, 2017
NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines®)
T-Cell Lymphomas Version 1.2024 — December 21, 2023
ALK陽性ALCLの“ALK”とは何ですか?
ALKは、未分化リンパ腫キナーゼ(Anaplastic Lymphoma Kinase)というタンパク質です。ALKタンパク質を作るALK遺伝子は、細胞のがん化に関連すると考えられている遺伝子のひとつです。リンパ腫を含むがん一般では、細胞ががん化するメカニズムに遺伝子異常がかかわっていることが知られています。がん化に関与する遺伝子にはさまざまなものがあり、がんの種類によってどの遺伝子に異常が起きているかは異なります。近年は、特定の遺伝子に異常がある患者さんは治療の効果が得られやすいなど、遺伝子異常と治療の関係について研究が進められています。
通常のリンパ球では、ALK遺伝子ははたらいておらず、ALKタンパク質が作られていません。しかし、リンパ球のALK遺伝子に異常が起き、他の遺伝子と融合してALK融合遺伝子になると、常に活性化された状態となり、ALK融合タンパク質が作られます。ALK融合タンパク質は細胞の増殖などに関与し、リンパ球のがん化をきたすと考えられています。
ALCLには、このALK 遺伝子の異常でALK融合タンパク質を作っているALK陽性ALCLと、ALK融合タンパク質を作っていないALK陰性ALCLがあります。ALK陽性ALCLは、他のタイプのPTCLに比べて後述するCHOP療法の効果が得られやすいことが知られており、治療方針が異なります。そのため、ALK陽性ALCLかどうかを調べることは治療を行う上で重要です。具体的には、生検で採取した組織の免疫学的検査により、細胞にALK融合タンパク質があるかどうかを調べます。
ALK遺伝子のほかにも、リンパ腫の治療効果に影響を及ぼす遺伝子があるかどうかの研究が行われています。TFH細胞起源であることを示すタンパク質や遺伝子を検出し、病型の分類や治療方針に活かすことが提唱され始めています。
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血液・腫瘍内科学
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鈴木 律朗先生