りんぱしゅ通信

リンパ腫と向き合うすべての人へ 治療のこと、暮らしのこと、これからのこと。

日常生活に戻るために自分ででき
る工夫

日常生活に戻るための制度
やサービス

日常生活に戻るために自分ででき
る工夫

日常生活に戻るための制度
やサービス

愛知県がんセンター 整形外科部 医長
吉田 雅博(よしだ まさひろ)先生

リンパ腫では、手術や放射線療法による骨や筋肉の障害、長期間の治療による筋力低下、抗がん剤によるしびれなどからだを動かすことが困難になる場合があります。
退院後または通院で治療する際には、痛みや筋力低下などにより生活が難しくなることが考えられるため、体力を取り戻すためのリハビリや運動を中心に、食事や排泄、睡眠の工夫など患者さん自身でできる工夫について紹介します。

がんロコモという概念

がんの治療中には、がんそのものや治療(化学療法、放射線療法、造血幹細胞移植、ステロイドなど)の副作用、併存する病気、感染症、または年齢にともなう運動器の併存疾患の進行などさまざまな原因によって、体が動かしにくくなったり、体⼒や筋⼒が低下したり、⾻がもろくなったりします。リンパ腫治療においても同じように、治療の過程で運動機能障害を生じることがあります。

2007年に日本整形外科学会より「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態」を表す言葉として「ロコモティブシンドローム」で通称「ロコモ」と提唱されました。ロコモは脳血管疾患や認知症と並び、寝たきりなどの要介護状態となる3大要因の一つとなっています。 がん自体あるいはがんの治療によって運動器の障害が起きて移動機能が低下した状態を「がんロコモ」といいます。よって「がんロコモ」はリンパ腫などのがん患者さんにとっても⾝近な問題です。

日本整形外科学会:「ロコモティブシンドローム いつまでも自分の足で歩くために」
(ロコモパンフレット2020年度版)

がんロコモには大きく分けて以下の2つの原因があります。

① がんそのものによる問題

  • リンパ腫が骨に転移して痛みや骨折・麻痺が生じる
  • リンパ腫が腋窩(わき)や鼠径部(足の付け根)で大きくなって四肢にむくみが生じて日常生活に支障をきたす

② がんの治療によって起きるさまざまな問題

  • 長期間の治療と安静による筋力低下
  • 抗がん剤によるしびれなどの神経障害
  • 手術や放射線療法による骨や筋肉の障害

③ がんと併存する運動器疾患の進行

  • 骨粗しょう症
  • 変形性関節症
  • 腰部脊柱管狭窄症 など

これらの運動器疾患ががんの進行や年齢によってさらに悪化します。

リンパ腫のがんロコモには以下の
ような症状が現れることが
考えら
れます。

  • 筋力の低下
  • 神経障害(しびれや麻痺など)
  • むくみ
  • 骨折(骨粗しょう症)
  •            

…など

        

治療によって起きるさまざまな問題のひとつである長期間の治療と安静による筋力低下は退院後や通院などの日常生活に戻るうえで大きな問題となっています。1日ベッドの上で過ごしていると筋力が約3%落ちるといわれており、1週間の入院で20%も筋力が失われると考えられます。1週間で失われた筋力を戻すためには1か月以上のリハビリを要するといわれています。そのため患者さん自身が気づかないうちにがんロコモにおちいっていることもあります。
がんロコモの状態が続くと、寝たきりや要介護につながり、最終的には「廃用(はいよう)症候群」を引き起こしてしまうおそれがあります。

草野修輔:理学療法科学, 19(3), p175-181, 2004

気をつけたい「副作用」

ステロイドによる骨粗しょう症

リンパ腫の治療ではステロイドを投与することがあります。ステロイドの投与による骨粗しょう症は重要な副作用のひとつです。骨粗しょう症は骨の密度が低くなって骨折しやすくなる病気ですが、ステロイドを長期投与されている患者さんに骨折が生じることがあります。 カルシウム、ビタミンD、ビタミンKやタンパク質を積極的に取り入れる食事に変え、日光浴、ウォーキングなどのちょっとした運動を取り入れてみるとよいでしょう。

日本骨代謝学会編:ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン(2014年改訂版), p2, 2014

腋窩や鼠径部のリンパ節が腫れて生じる手足のむくみ

リンパ腫が腋窩や鼠径部に発症してリンパ節が腫れると、手足にむくみが生じて日常生活動作や歩行に支障をきたすことがあります。手や足の太さに左右差を感じたら、医師や看護師に相談しましょう。

抗がん剤によるしびれなどの神経障害

抗がん剤などの治療で手先や足先にしびれや痛みを感じることを、末梢神経障害と呼びます。最初はちょっとした違和感からはじまり、一時的なしびれや軽い痛みでおさまることがありますが、徐々に症状が強くなったり、ひろがることもあります。
症状は抗がん剤の種類や治療期間によって異なりますので、症状を自覚したら、我慢せずに医師や看護師、薬剤師に伝えるようにしましょう。

自分でできるリハビリ

がんロコモのひとつである筋力の低下は、早めの対策をすることで、軽減することができます。運動機能が低下してからではなく、治療開始前から行うことが重要です。リハビリとして有酸素運動などの運動療法を行うことでスッキリした気分になることから精神的ストレスも軽減されます。

運動療法は、リンパ腫の治療のひとつである造血幹細胞移植に伴う合併症を軽減することもわかり、病院における骨髄移植リハビリプログラムの中にも積極的に組み込まれるようになっています。入院中や通所リハビリテーションを受けた方は、理学療法士さんや作業療法士さんに⾝体機能の状態や⾃宅の環境を評価してもらい、日常の動作を改善するアドバイスを受けたり、自分でできるリハビリについてのプログラムを組み立ててもらったりすることをおすすめします。

運動療法は準備運動を行った後、20~30分間の有酸素運動を週3~5日行うのが効果的であるといわれています。可能であれば10~20分程度の筋力トレーニングも取り入れるとよいでしょう。

患者さん自身で行うことのできる運動療法の例を紹介します。患者さん自身の体調と相談し、無理のない範囲で続けることが大切です。運動を行う際は、必ず医師、看護師などに相談の上、行うようにしましょう。

日本リハビリテーション医学会 がんのリハビリテーション診療ガイドライン改訂委員会編:
がんのリハビリテーション診療ガイドライン第2版, 金原出版, p202-210, 2019

国立がん研究センター がん対策情報センター:がん情報サービス「がんとリハビリテーション医療」
(https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/rehabilitation/index.html)
[2023年9月閲覧]

運動療法の流れと方法

ストレッチ(10~20分)

息は止めずにゆっくり呼吸をしながら、痛みが出る少し手前のところまで伸ばしましょう。

(例)以下のストレッチをそれぞれ10~20秒 × 2~3セット


肩甲骨周囲の運動


両側の肩甲骨を遠ざけたり近づけたり、上下に動かすことで肩甲骨の柔軟性を向上させる運動です。


リハビリを開始したときは、まずは数日間、お風呂上りなど体が温まっているときに、ゆっくりとストレッチだけ行うのもよいでしょう。


肩甲骨周りのストレッチ効果としては、柔軟性の向上や血流の改善で肩こりが解消され、睡眠の質が上がります。

筋力トレーニング(10~20分)

主に脚の筋トレを行いましょう。
(例)以下のトレーニングをそれぞれ10~20回 × 2~3セット


つま先立ち

足を肩幅くらいに開き、テーブルなどにつかまりながら立つ。 ゆっくりとかかとを持ち上げてつま先立ち になり、ゆっくりと戻す。

がん治療を専門とするメディカルスタッフからのアドバイス

足を肩幅くらいに開き、テーブルなどにつかまりながら立つ。 ゆっくりとかかとを持ち上げてつま先立ち になり、ゆっくりと戻す。

つま先立ちの効果としては、足を上げることで下半身の緊張をほぐして骨盤の歪みが取れます。体のバランスが良くなり、筋肉の収縮と緊張を取ることで血流やリンパの流れがよくなりむくみも解消されます。


ひざ上げ

椅子に座り、なるべく背すじを伸ばす。

足踏みをするように、足全体を持ち上げる。


ひざ伸ばし

椅子に深く座り、片足ずつゆっくり伸ばしていき、ゆっくり下ろす(足首は曲がらないように)。

※楽にできるようになったら、足首に重りをつけて負荷を増やしてみましょう。

椅子に深く座り、片足ずつゆっくり伸ばしていき、ゆっくり下ろす(足首は曲がらないように)。

※楽にできるようになったら、足首に重りをつけて負荷を増やしてみましょう。

つま先立ちの効果としては、足を上げることで下半身の緊張をほぐして骨盤の歪みが取れます。体のバランスが良くなり、筋肉の収縮と緊張を取ることで血流やリンパの流れがよくなりむくみも解消されます。


スクワット

余裕がある人は、椅子やテーブルを利用して、スクワットを行いましょう。両足は肩幅、膝を前に出さないでお尻を後ろに出す(膝がつま先より前に出ると膝を痛めます)。1日で15回を3セット程度行います。

スクワットの効果としては、下半身のような大きな筋肉を動かすことで基礎代謝が上昇し、全身のバランスがよくなり転倒防止になります。この運動は膝への負担が少ないと言われていますが転倒しないように注意してください。

余裕がある人は、椅子やテーブルを利用して、スクワットを行いましょう。両足は肩幅、膝を前に出さないでお尻を後ろに出す(膝がつま先より前に出ると膝を痛めます)。1日で15回を3セット程度行います。

スクワットの効果としては、下半身のような大きな筋肉を動かすことで基礎代謝が上昇し、全身のバランスがよくなり転倒防止になります。この運動は膝への負担が少ないと言われていますが転倒しないように注意してください。

有酸素運動(20~30分)

有酸素運動を行う際は、事前に医師や看護師などに相談の上、無理のない範囲で行いましょう。また、こまめに水分補給をするのを忘れないでください。


尻上げ運動(体幹トレーニング)


仰向けで肩をついたまま、腰を持ち上げる運動で、息をしながら10秒〜15秒ほど保つのを2セット行います。 尻上げ運動の効果としては、背筋や腹筋などの体幹部分を鍛えることで、体が引き締まり、姿勢が良くなり、体が疲れにくくなります。


ウォーキング

有酸素運動の最も基本的な運動はウォーキングなので、天気の良い日や体調が優れている時は30分ぐらいかけて散歩やショッピングに出かけるのもいいでしょう。
天気の良い日なども外の散歩は気分転換にもなり、リフレッシュすることができます。何か違和感があったときにすぐに自宅に帰れるように、まずは、自宅の近くや人通りのある慣れた道を歩いてみましょう。


水中ウォーキング

プールでのウォーキングも効果的です。水中では陸上に比べて浮力があるため、膝への負担が少ないといわれています。
一方で、一定の水圧もあるため、血流やリンパの流れもよくなるマッサージ効果も期待できるといわれています。下半身の水中ウォーキングでも十分に効果はありますが、肩までプールに入って水中ウォーキングすれば呼吸訓練にもなります。


サイクリング

有酸素運動に少し慣れたら自転車をこぐこともおすすめします。 筋肉の大部分は下半身にあるので、効果的に有酸素運動ができるほか、足腰の強化にもつながります。転倒しないよう十分注意しながら行いましょう。

その他、バイクマシン(自転車エルゴメーター)を使った有酸素運動も選択肢のひとつです。患者さんの体調と相談しながら、少しずつ、時間と強度を増やすことをおすすめします。

また、負荷の目安として、安静時の心拍数+30拍/分(最大心拍数の60~80%)を目標HRにするなど、楽に運動ができて呼吸も乱れず、少し汗をかく程度で行いましょう。

バイクマシン(自転車エルゴメーター)

整理体操(10~20分)

呼吸を整えながら、準備運動と同様のストレッチを行いましょう。 運動後に、筋肉をしっかりほぐすことで筋肉の疲労回復を促します。

また、運動後に違和感がないかなど自己点検をします。何か違和感があれば運動を中止し、医師および看護師に相談しましょう。

質問 1

リハビリはいつから始めたほうがいいの?

治療開始前に治療後のことを見据えてリハビリを始めるとがんロコモの症状を軽減することができます。特に65歳(前期高齢者)から75歳(後期高齢者)では体力の変化を感じることが多く、2014年度の内閣府調査によると、60〜64歳で自分を高齢者だと思う人はわずか10%しかいないのに、75〜79歳になるとその数は60%以上になります。
がんの好発年齢も60歳代なので、がんロコモを予防する最も重要な年代といえます。しかしながら、無理にリハビリを始めるのは禁物です。患者さん自身の体調と相談しながらできることを少しずつ始めてみましょう。

国立がん研究センター がん対策情報センター:がん情報サービス
「がん種別統計情報 全がん」(全国がん登録罹患データ)
(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/1_all.html)
[2023年9月閲覧]

内閣府:平成26年度 高齢者の日常生活に関する意識調査結果, p156-159
(https://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h26/sougou/zentai/index.html)
[2023年9月閲覧]

質問 2

体調が思うように優れなくて、リハビリする元気がでないときはどうすればいいの?

リンパ腫の治療によって体調が優れなかったり、リンパ腫が進行してうまく日常の動作ができないときには、無理をして運動療法を行う必要はありません。化学療法や放射線療法による副作用には種類によって発現するタイミングや期間が異なり、一概には言えませんが、一過性のものが多く、回復するまでは安静に過ごし、体調が回復したら、リハビリを再開しましょう。体調が優れないときは、体に負担のかからないようなリラックス方法がおすすめです。

質問 3

在宅療養でリハビリを受けるにはどうすればいいの?

在宅リハビリの選択肢のひとつとして、介護保険制度の「訪問リハビリ」があります。 このサービスではさまざまな職種のリハビリスタッフが患者さんの自宅に定期的に訪問し、日常生活に必要な基本動作を行うための機能訓練をはじめ、食事の工夫や、運動療法についてなどのサポートを受けられます。
訪問リハビリやデイケアなどのサービスを受けたい場合には地域の主治医やソーシャルワーカー、地域のケアマネジャーに相談しましょう。市町村役場の介護保険課の窓口にはケアマネジャーのリストが 置いてあります。

国立がん研究センター がん対策情報センター:
がん情報サービス「在宅療養でのリハビリテーション医療」
(https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/rehabilitation/index.html#anchor7)
[2023年9月閲覧]

療養生活での工夫

日常生活のちょっとした心がけで、体調の維持や回復を図ることができます。

体調管理のポイント

  • 規則正しい生活
  • バランスのとれた食事
  • 適度な水分摂取
  • 十分な休養と睡眠
  • 適度な運動
  • 感染予防(手洗い・うがいなど)
  • 禁煙
  • リラックス法(深呼吸など)
  • 気分転換とストレス発散
  • 悩みや不安の原因を取り除く
  • 身体的な苦痛を取り除く
  • 定期的な検査

特に感染症に注意が必要です。感染症の予防については「副作用ケア:風邪をひいたような感じがする-感染症-」をご覧ください。

下痢・便秘の予防と対策

下痢や便秘などの排便の問題は、日常生活のちょっとした工夫である程度軽減することができます。薬をあらかじめ使うことで症状を軽くすることもできます。我慢しないで、担当医に相談してみましょう。
詳しくは「副作用ケア:おなかの調子が悪い-下痢・便秘-」で解説しています。

休養、睡眠、気分転換のヒント

心をリラックスさせ、体がほぐれると心地よい休養や睡眠が取れるといわれています。また、時には病気のことを忘れて気分転換してみることは、心だけでなく体の安らぎにつながります。いろいろと試して自分に合った方法を見つけましょう。
眠れない場合はひとりで抱え込まずに、担当医や看護師、がん相談支援センターに相談し、原因に応じた対処法を見つけていきましょう。

リラックス方法の例

  • ぬるめのお風呂や足浴
  • 軽い読書
  • ストレッチや散歩
  • 音楽
  • 香り(アロマセラピー) など

睡眠を助けるための工夫

  • 夕食後にはカフェインの多い飲み物や食べ物を控える
  • 深酒はしない
  • ぬるめのお風呂と軽いストレッチ運動
  • 眠る時間は早すぎず、遅すぎず
  • 適度な暗さ(明るさ)に調節する
  • 寝具などを整える

※効果には個人差があります。

リハビリテーション医からのコメント リハビリテーション医からのコメント

リンパ腫の患者さんは退院後も、感染症の予防や休養など、日常生活の過ごし方に注意する必要があります。とはいえ、あまりに何もしないで過ごしていると体力や筋力が低下してしまいますので、早期から定期的にリハビリを行うことも大切です。ここで紹介したリハビリメニューを参考に体を動かしましょう。このようにご紹介したリハビリを長く継続するには、特に座った状態や寝た状態で行うリハビリでは、テレビを観ながらとか音楽を聴きながらの「ながら運動」をおすすめします。体はリラックスできて知らないうちに時間が過ぎていくので、ご紹介した運動を自分で組み立てて日課にできるといいでしょう。
ここで紹介した運動以外にも、掃除、洗濯、買い物などの家事も十分体力を要します。自分のできる範囲でできるだけ体を動かすようにし今までの生活がなるべく維持できるように心がけましょう。ただし、体調の悪いときは無理をしないようにしましょう。

2023年9月現在の情報を元に作成

自己負担をさらに軽くするしくみ

多数回該当や世帯合算などの条件により自己負担の上限額が軽減される場合についてご紹介します。

先生への質問リスト

質問しておきたいことについて、事前にメモを用意して質問リストをつくって持っていきましょう。

療養生活のサポート

リンパ腫の治療には、入院治療、通院治療があります。
ご本人が安心して治療を受けられるよう、ご家族のかたのサポートが重要です。

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監修:
公益財団法人慈愛会 今村総合病院 名誉院長 兼 臨床研究センター長、HTLV-1研究センター長
宇都宮 與(うつのみや  あたえ)先生

大切な人がリンパ腫と診断されたら、ご本人だけでなく、ご家族のかたにも大きな影響を与えます。悲しみや不安を抱えるなか、さまざまな決断をしたり、初めて経験する多くの変化に対処していかなければなりません。今後の療養生活や、ご本人を支えていくうえで重要なポイントを知っておきましょう。