りんぱしゅ通信

リンパ腫と向き合うすべての人へ 治療のこと、暮らしのこと、これからのこと。

第3回 リンパ腫の治療はな
ぜ人に
よって違う?〜医師はどう治療を選択しているのか〜

第3回 リンパ腫の治療はな
ぜ人に
よって違う?〜医師はどう治療を選択しているのか〜

医療法人財団順和会 赤坂山王メディカルセンター
(国際医療福祉大学医学部 血液内科学 教授)
畠 清彦(はたけ きよひこ)先生

リンパ腫にはさまざまな治療法があります。患者さんのなかには、同じ病気なのになぜ治療方法が異なるのか、疑問に感じる方もいらっしゃることでしょう。今回は、医師がどのように治療を決めているかについて、畠先生にお話をうかがいました。

医師は、どのように治療方法を選択しているのでしょうか?

畠先生(以下、敬称略) リンパ腫の治療には多くの方法がありますが、基本的には「標準治療」を選択しています。標準治療とは、科学的なデータから現時点で最良の治療であると広く考えられている治療法です。医師は、標準治療を基本としたうえで、一人ひとりの患者さんにふさわしい治療方法に調整することがあります。例えば、薬の種類を違うものに変えたり、薬の投与量や投与回数、投与間隔を変えたりします。

どのような点を考慮して、治療方法を調整しているのですか?

畠 大きく分けて3つの点を考慮に入れています。病気の特性、治療の特性、そして患者さんの特性です。

   病気の特性とは、病気のタイプ病型びょうけい)や進行具合(ステージ、経過の見通しである予後よ ごなどをさします。標準治療はリンパ腫の病型やステージによって違います。標準治療が定まっていない場合もありますが、その場合も病型やステージによって、よく行われる治療法が異なります。また、予後を知ることによって、治療をしない場合や治療を行った場合のリスクがわかります。例えば、病気の進行が早いタイプのリンパ腫で、かつ治療をしないと予後が悪いと推定される場合は、急いで治療をしたほうがいいと考えられます。

   治療の特性とは、治療を行うために必要な条件や治療が及ぼす影響などです。リンパ腫では強力な治療を行うことも多いので、治療そのものが身体への負担を伴います。そのため、治療を行わない場合と比べて、治療を行うことで患者さんにもたらされるベネフィット(利益)がどのくらいか、考える必要があるのです。これは、次に述べる患者さんの特性と併せて検討します。患者さんにどのような影響が出やすいか、またどの程度の影響が出るかは、治療法によって異なります。

   さいごに、患者さんの特性として、年齢や性別、普段どのように生活されているかなどを考慮します。とくにご高齢の方では、ご自身で歩けて生活ができるか、他に病気があるかといった健康状態が重要です。先ほど述べたように、リンパ腫の治療は強力なものもあるので、患者さんの健康状態によっては、治療を弱めたほうがベネフィットを得られる場合もあります。1ヵ月前などではなく、今現在の健康状態はどうなのかがポイントになります。

   人と接する機会が多い方であれば、脱毛が仕事や日常生活に大きな支障をきたさないか、働きざかりの方であれば、スケジュールどおりに通院できるか、若い方であれば、お子さんをもうける意思があるかといった社会的な面も考慮します。リンパ腫の薬物治療では、決められた回数の治療を決められた間隔で行うことが大切なので、そのスケジュールで通院できるかどうかは治療を決めるうえで大きな要素となります。

   このように、病気の特性・治療の特性・患者さんの特性から、治療を行わない場合のリスク、治療によって期待できるベネフィット、治療の調整・変更の必要性を考え、その患者さんに適した治療方針を決めていきます。

患者さんごとに、さまざまな治療の可能性があるのですね。

畠 そうですね。治療方法だけではなく、治療に対する効果のあらわれかたや、治療後の経過も患者さんによって異なります。しかし、薬の効果が出るまでの時間はある程度の目安がわかっていますので、患者さんには「少なくともそれまでの期間はがんばりましょう」とお伝えしています。

他の人と治療が違うことで、不安を感じてしまう患者さんもいらっしゃるのではないでしょうか?

畠 患者さんのなかには、他の方が自分と同じ病気なのに違う治療を受けていることに不安を感じて、いわゆるドクターショッピングをしてしまう方もいらっしゃいます。これは、医師が治療を選択した理由が、患者さん自身にうまく伝わっていないことが原因ではないでしょうか。また、入院や治療を急ぐリンパ腫は治療開始前にセカンドオピニオンをあおぐ時間がなく、治療の途中で不安をつのらせてしまう原因になっている可能性もあります。セカンドオピニオンは患者さんに与えられた当然の権利ですが、医師はさまざまな要素を加味して治療方針を立てているので、治療の途中で病院を変えることは基本的にはリスクがあると思います。もし不安を感じた場合は、まずは納得のいくまで主治医と相談されるのがよいと思います。

※違う医療機関をつぎつぎに受診することをいいます。

さいごに、これからリンパ腫の治療に取り組む患者さんにメッセージをお願いします。

 新しい薬の登場でリンパ腫の予後は改善し、外来での治療も可能になってきました。医師は患者さんの特性なども含め多くのことを考え、患者さんに最もふさわしい治療を選択しようとしています。ですから患者さんは、自分の意思や不安な気持ちをしっかりと医療者に伝えるようにしてください。リンパ腫治療の主役は患者さんですので、患者さんみずからが納得して、医療者とともに前向きに治療に取り組んでいくようにしましょう。

医療法人財団順和会 赤坂山王メディカルセンター
(国際医療福祉大学医学部 血液内科学 教授)
畠 清彦先生

リンパ腫は治療スケジュールも大切

リンパ腫がなくなって体調も安定しているので、もう治療をやめてもいいですか?

リンパ腫の薬物治療は、一定の間隔で決められた回数の投与をくり返し、数ヵ月にわたって行います。治療の途中で効果があらわれてリンパ腫がみられなくなると、「もう治療をやめたい」とおっしゃる患者さんも少なくありません。しかし、検査でリンパ腫がみられなくなれば治療終了というわけではなく、決められた回数の治療を行うことは、再発のリスクを減らすために大切です。仕事や家事の合間を縫って通院するのは大変だと思いますが、最後まで治療を続けていただくよう、お話ししています。

日本血液学会 編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023
神田善伸 監:ウルトラ図解 血液がん, 法研, p80, 2020

自己負担をさらに軽くするしくみ

多数回該当や世帯合算などの条件により自己負担の上限額が軽減される場合についてご紹介します。

先生への質問リスト

質問しておきたいことについて、事前にメモを用意して質問リストをつくって持っていきましょう。

療養生活のサポート

リンパ腫の治療には、入院治療、通院治療があります。
ご本人が安心して治療を受けられるよう、ご家族のかたのサポートが重要です。

「りんぱしゅ通信」コンテンツ一覧

ご家族のかたへ

ご家族のかたへ ご家族のかたへ

監修:
公益財団法人慈愛会 今村総合病院 名誉院長兼臨床研究センター長、HTLV-1研究センター長
宇都宮 與(うつのみや あたえ)先生

大切な人がリンパ腫と診断されたら、ご本人だけでなく、ご家族のかたにも大きな影響を与えます。悲しみや不安を抱えるなか、さまざまな決断をしたり、初めて経験する多くの変化に対処していかなければなりません。今後の療養生活や、ご本人を支えていくうえで重要なポイントを知っておきましょう。