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PTCLの治療

監修:
島根大学医学部 内科学講座 血液・腫瘍内科学 教授

鈴木 律朗(すずき りつろう)先生

PTCLでは多剤併用化学療法や放射線療法を行います

PTCLは月単位で病気が進行するといわれており、早期に治療を開始することが大切です。PTCLの治療方針はその種類によって異なり、大きくALK陽性ALCLとその他のタイプに分けられます。

PTCLでは多剤併用化学療法や放射線療法を行う

ALK陽性ALCLの場合

ALK陽性ALCLでは、特定の抗がん剤治療(化学療法)で治療成績が良いという研究結果があり、それが標準治療とされています。病気の広がりが限定的な場合(限局期(げんきょくき)といいます)は、さらに徹底してがん細胞を減らすために、化学療法の後に放射線療法を行います。

その他のタイプの場合

PTCL-NOSやAITL、ALK陰性ALCLの場合も、ALK陽性ALCLと同様の化学療法が行われることが多いのですが、治療効果は必ずしも良好ではなく、標準治療が定まっていないのが現状です。そのため、臨床試験(りんしょうしけん)への参加も選択肢のひとつとされています。抗がん剤治療で治療効果が得られた場合は、さらに徹底してがん細胞を減らすために自家造血幹細胞移植(じかぞうけつかんさいぼういしょく)大量化学療法を併用した治療を行う場合もあります。

最初の治療で効果が得られない患者さん(難治例(なんちれい)または治療抵抗例(ちりょうていこうれい)といいます)や、いったん効果が得られたものの、再びがん細胞が増えてしまう患者さん(再発または再燃(さいねん)といいます)には、これまで救援化学療法が行われていましたが、近年は分子標的薬も使えるようになっています。

日本血液学会 編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 7末梢性T細胞リンパ腫」

①PTCLで行われる多剤併用化学療法

多剤併用化学療法(たざいへいようかがくりょうほう)では、いくつかの抗がん剤を組み合わせることで効果を高めたり、副作用を軽くしたりします。どの組み合わせで、どのように投与するとより良い効果が期待できるか、多くの研究が行われています。

ALK陽性ALCLやCD30陽性のPTCLでは、 CD30陽性のPTCL(ALK陽性及びALK陰性ALCLを含む)では、分子標的薬やアルキル化剤ステロイド薬などを組み合わせた BV-CHP療法やCHOP(チ ョッ プ)療法とよばれる薬物療法で治療されます。多くの場合は外来(通院)でこの治療法を行います。その他のタイプのPTCLでも、CHOP療法やそれに類似した多剤併用化学療法が行われます。

高齢の患者さんや、もともと健康状態がよくない患者さんで、副作用が出やすく治療に耐えられないと考えられる場合は、薬の量を減らしたり、副作用が少ない薬を使用したりします。

日本血液学会 編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 7末梢性T細胞リンパ腫」
神田善伸 監:ウルトラ図解 血液がん, 法研, p122, 2020
飛内賢正 監:血液のがん 悪性リンパ腫・白血病・多発性骨髄腫, 講談社 , p54, 2015

②放射線療法

放射線療法は、体の外からがんがある部位に放射線をあて、DNAを傷つけることによりがん細胞を破壊する治療法です。がん細胞の広がりが1ヵ所から数ヵ所に限定されている場合に効果的です。

放射線をあてると正常な細胞もダメージを受けますが、がん細胞のほうがダメージを受けやすいため、がん細胞が破壊され正常な細胞が回復できるくらいの量の放射線を照射します。

放射線療法

飛内賢正 監:血液のがん 悪性リンパ腫・白血病・多発性骨髄腫, 講談社 , p34, 2015 より作成

放射線照射の頻度や回数は病気の状態によって異なりますが、外来で治療可能です。副作用としては、疲労感や皮膚の症状などがあらわれる場合があります。

③自家造血幹細胞移植

PTCL-NOSやAITL、ALK陰性ALCLで初回の多剤併用化学療法の治療効果がみられた場合は、さらに徹底してがん細胞を減らすために、自家造血幹細胞移植と大量化学療法を併用した治療を行う場合があります。ただし、移植が有効かどうかはまだ研究が十分ではないと考えられているため、実施する場合は臨床試験として行うことが望ましいとされています。また、身体への負担が大きい治療法なので、患者さんの全身状態などを考慮して、移植を行うかどうかを決めます。ALK陽性ALCLでは、一般的に化学療法で効果がみられた後の移植は行われません。

日本血液学会 編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 7末梢性T細胞リンパ腫」

移植の流れ

造血幹細胞とは、血液細胞のもとになる細胞です。自家造血幹細胞移植では、まず患者さん自身の造血幹細胞を採取して保存しておきます。その後、大量の抗がん剤や放射線治療によってがん細胞を破壊し(前処置ぜん しょ ちといいます)、保存しておいた造血幹細胞を移植して、血液細胞を作れるようにします。移植した造血幹細胞が患者さんの骨髄の中で血液細胞を作り始めることを、生着(せいちゃく)といいます。

(イメージ図)

移植の流れ

チーム医療のための血液がんの標準的化学療法(直江 知樹, 堀部 敬三 監),
メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2013 を参考に作成

移植に伴う合併症

自家造血幹細胞移植では、前処置によって吐き気や脱毛などの副作用が生じる場合があります。また、骨髄抑制により白血球が減少し、感染症にかかりやすくなり、さらには重症化する可能性があります。このため、しっかりとした感染予防が必要で、患者さんは移植から生着まで無菌室で過ごします。

④治療後の経過観察

治療効果が得られた場合も、再発する可能性は否定できないため、定期的な経過観察が必要です。

定期的な通院

経過観察のため定期的に通院し、リンパ節が腫れていないか、血液細胞の数に異常がみられたり、病気の進行度をあらわす検査値に異常がないか、治療後の副作用の状況はどうかなどを調べます。CTなどの画像検査を行うこともあります。

通院の間隔は決まっていませんが、病気の状態や患者さんの生活などから総合的に判断します。ガイドラインでは、最初の2年は2~3ヵ月ごと、次の3年間は3~6ヵ月、といったスケジュールでの経過観察が推奨されます。

日本血液学会 編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 悪性リンパ腫総論」

注意すべき症状

経過観察中に以下のような症状に気づいたら、受診するようにしましょう。

リンパ節の腫れ(首、わきの下、足のつけ根など)

リンパ節・皮膚の下のしこり

お腹や背中の圧迫感

原因不明の発熱、だるさがつづく

吐き気、食欲不振

原因不明の頭痛や意識がぼんやりする

口が渇く、頻尿がつづく(高カルシウム血症)

⑤初回治療がうまくいかない場合でも
さまざまな選択肢があります

PTCLでは、最初の治療で効果が得られなかった場合や、いったん効果が得られたものの再発した場合、決められた治療法はありません。しかし、化学療法のほか、近年では複数の治療薬が使えるようになり、治療の選択肢が増えています。

様々な治療の選択肢

日本血液学会 編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 7末梢性T細胞リンパ腫」

がん細胞がもつタンパク質に対する抗体薬や、がん細胞の遺伝子の制御にかかわるタンパク質のはたらきを妨げる薬などにはそれぞれ特徴があり、2回目以降の治療は、それぞれの患者さんの病気の状態やこれまでの治療を考慮して決めていきます。