りんぱしゅ通信

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アグレッシブATLLの治

アグレッシブATLLの治

監修:
公益財団法人慈愛会 今村総合病院 名誉院長兼臨床研究センター長、HTLV-1研究センター長

宇都宮 與(うつのみや あたえ)先生

アグレッシブATLLでは化学療法や造血幹細胞移植を
行います

アグレッシブATLLでは、 がん化したT 細胞を減らすことを目的として、早急に治療を開始します。

抗がん剤治療 (化学療法)を行い、 治療の効果が得られた場合は、さらに徹底してがん細胞を減らすために同種造血幹細胞移植どう しゅ ぞう けつ かん さいぼう い しょくを実施します。

最初の化学療法で治療効果が得られない患者さん(難治例なん ち れいまたは治療抵抗例ちりょう ていこうれいといいます)や、いったん効果がみられたものの、再びがん細胞が増えてしまう患者さん(再発または再燃さいねんといいます)には、救援療法、 同種造血幹細胞移植、緩和的化学療法、緩和的放射線療法、best supportive careが行われます。

日本血液学会 編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 9成人T細胞白血病・リンパ腫 総論」より作成

①ATLLで行われる多剤併用化学療法た ざい へい よう か がくりょうほう

標準的な多剤併用化学療法

多剤併用化学療法では、いくつかの抗がん剤を組み合わせることで効果を高めたりします。どの組み合わせで、どのように投与するとより良い効果が期待できるか、多くの研究が行われました。

日本血液学会のガイドラインでは、ATLLの標準治療となる抗がん剤の組み合わせが示されています。アルキル化剤ステロイドなど、8種類の抗がん剤を組み合わせたmLSG15療法とよばれる薬物療法で、入院または外来で行います。

高齢の患者さんや、もともと健康状態がよくない患者さんで、副作用が出やすく治療に耐えられないと考えられる場合は、薬の量を減らしたり、副作用が少ない薬を使用したりします。

日本血液学会 編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 9成人T細胞白血病・リンパ腫 」
永井正:図解でわかる 白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫, 法研, p226-227, 2016
飛内賢正 監:血液のがん 悪性リンパ腫・白血病・多発性骨髄腫, 講談社, p54, 2015
Tsukasaki K, et al.: J Clin Oncol. 25. 5458-5464 , 2007

分子標的薬

近年、がん細胞がもつタンパク質に対する抗体薬(分子標的薬ぶん し ひょうてきやく)が開発され、化学療法と併用もできるようになりました。この薬を投与する前には、標的となるタンパク質を患者さんがもっているかどうか検査する必要があります。

永井正:図解でわかる 白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫, 法研, p225, 2016

②同種造血幹細胞移植

多剤併用化学療法の後に同種造血幹細胞移植を行うと、患者さんの経過が良いという研究結果があります。また、治癒の可能性が期待できることから、多剤併用化学療法で効果が得られた患者さんでは、移植を検討することが勧められています。ただし、身体への負担も大きいので、患者さんの全身状態などを考慮して、移植を行うかどうかを決めます。

造血幹細胞移植には、他の人の造血幹細胞を移植する同種造血幹細胞移植のほか、患者さん自身の造血幹細胞を前もって採取しておき移植する自家造血幹細胞移植じ か ぞう けつ かん さいぼう い しょくがありますが、ATLLでは、自家造血幹細胞移植は再発する確率が高いため、推奨されていません。

日本血液学会 編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 9成人T細胞白血病・リンパ腫 」
Utsunomiya A: Front Microbiol. 10, 1-16, 2019
Utsunomiya A, et al. Bone Marrow Transplant 27(1), 15-20, 2001

移植の流れ

造血幹細胞とは、血液細胞のもとになる細胞です。同種造血幹細胞移植では、まず大量の抗がん剤や放射線療法によってがん細胞を破壊し(前処置ぜん しょ ち)、その後、ドナーから提供される正常な造血幹細胞を移植します。移植した造血幹細胞が患者さんの骨髄の中で血液細胞を作り始めることを、生着せいちゃくといいます。

チーム医療のための血液がんの標準的化学療法(直江 知樹, 堀部 敬三 監), メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2013を参考に作成

移植された造血幹細胞が生着し、新しく血液細胞が増えてくると、ドナー由来の白血球は、患者さんの臓器を異物としてみなして攻撃してしまうこともあります。このような合併症は移植片対宿主病いしょくへんたいしゅくしゅびょう( GVHD )ジーブイエイチディーといい、免疫抑制剤などにより対処を行います。GVHDには、急性GVHDと慢性GVHDがあります。

急性GVHD

主な症状

皮疹、皮膚のかゆみ、肝機能障害、
黄疸、ひどい下痢、吐き気など

慢性GVHD

主な症状

目の乾燥目の充血、皮膚の黒ず み、皮膚が固くなる、口の乾燥、 口内炎など

一方、ドナー由来の白血球が残っていたがん細胞を異物としてみなして攻撃し、がん細胞をさらに減少させてくれる場合があります。このような効果は、移植片対ATLL効果といいます。

日本造血・免疫細胞療法学会 編:造血細胞移植ガイドライン GVHD 第5版,2022
日本造血・免疫細胞療法学会:患者さん・ドナーさん・一般の方へ「患者さんの情報: 急性移植片対宿主病」
(https://www.jstct.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=21)日本造血・免疫細胞療法学会:患者さん・ドナーさん・一般の方へ「患者さんの情報: 慢性移植片対宿主病」
(https://www.jstct.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=37)日本造血・免疫細胞療法学会:患者さん・ドナーさん・一般の方へ
「患者さんの情報: 移植片対白血病・リンパ腫効果」
(https://www.jstct.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=22)

移植に伴う合併症

同種造血幹細胞移植では、上記のGVHDのほか、前処置による吐き気や脱毛、臓器障害などの副作用が生じる場合があります。また、骨髄抑制により白血球が減少し、感染症に非常にかかりやすく、重症化する可能性があります。このため、しっかりとした感染予防が必要で、患者さんは移植から生着まで無菌室で過ごします。

日本造血・免疫細胞療法学会:患者さん・ドナーさん・一般の方へ「患者さんの情報: 移植前処置治療」
(https://www.jstct.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=16)日本造血・免疫細胞療法学会:患者さん・ドナーさん・一般の方へ
「患者さんの情報: 白血球減少期(幹細胞輸注〜生着まで)」
(https://www.jstct.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=18)

フル移植とミニ移植

高齢の患者さんなど、前処置で負担の大きい強力な治療を行うことが難しい患者さんでは、前処置の強度を弱めた骨髄非破壊的移植こつ ずい ひ はかい てき いしょく(ミニ移植)が行われることがあります。ミニ移植に対し、従来の移植法はフル移植(骨髄破壊的移植)といいます。フル移植を行う目安は55歳までとされています。

日本造血・免疫細胞療法学会:患者さん・ドナーさん・一般の方へ「患者さんの情報: 移植前処置治療」
(https://www.jstct.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=16)日本血液学会 編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 9成人T細胞白血病・リンパ腫 」

ドナーの条件

同種造血幹細胞移植のドナーは、 HLAエイチエルエー という白血球の型が患者さんと一致している必要があります。HLAは兄弟姉妹間では1/4の確率で一致しますが、非血縁者間では一致する確率が低く、骨髄バンクで非血縁者のドナーを探す場合、見つかるまで時間がかかるケースも多くみられます。HLAが100%一致することが理想的ですが、完全に一致していない場合でも移植を行う場合があります。

平成25年度厚生労働科学研究費補助金 がん臨床研究事業
「成人T細胞白血病の治療を受ける患者さん・ご家族へ 第2版」
(https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2013/133051/201314018B/201314018B0003.pdf) [2024年3月閲覧]

③治療効果が得られない/再発したときの治療

最初の治療で効果が得られなかった場合や、いったん効果がみられたものの再発した場合に行う治療を、救援療法といいます。救援療法にはさまざまな治療法があり、標準治療は決まっていません。個々の患者さんの状態や前回の治療などを考慮して、治療を行います。

現在は、分子標的薬や免疫調節薬めん えきちょうせつやくといった新しいタイプの薬も使えるようになっています。免疫調節薬は、さまざまなメカニズムでがん細胞の増殖を抑えると考えられています。

日本造血細胞移植学会 編:造血細胞移植ガイドライン 成人T細胞性白血病・リンパ腫, 2018
日本血液学会 編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 9成人T細胞白血病・リンパ腫 」

治療後の経過観察

治療効果が得られた場合も、再発する可能性は否定できないため、定期的な経過観察が必要です。

先生からのメッセージ

完全奏効かんぜんそうこうって何ですか?

完全奏効とは、治療の効果をあらわす言葉で、検査などでがん細胞が見つからない状態です。完全奏効というと「治った」と思われがちですが、そうではありません。検査では見つからなかったものの、まだ少量のがん細胞が残っており、再発する可能性が否定できないのです。一方、検査でがん細胞がみられても治療前に比べて減少している場合は、部分奏効ぶ ぶん そう こうといいます。寛解という言葉も奏効と同様に使われます。
 アグレッシブATLLでは、治療効果を都度、確認しながら、その患者さんに最適な治療を検討していきます。治療効果の判定は、リンパ節や皮膚、その他の臓器に病変がないか、骨髄への浸潤がないか、血液中に異常なリンパ球がないかなどを調べ、基準にあてはめて行います。
 ATLLは奏効や寛解になっても経過観察や治療を続ける必要があります。しかし、治療法はさまざまな角度から研究が重ねられ、進歩しています。納得のいく治療ができるよう、医師とよく相談しながら、取り組んでいきましょう。

宇都宮 與先生

公益財団法人慈愛会 今村総合病院 名誉院長兼
臨床研究センター長、HTLV-1研究センター長
宇都宮 與先生

日本血液学会 編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 9成人T細胞白血病・リンパ腫 」
国立がん研究センター がん対策情報センター:がん情報サービス「用語集 治療効果判定」
(https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/RECIST.html)[2024年3月閲覧]

自己負担をさらに軽くするしくみ

多数回該当や世帯合算などの条件により自己負担の上限額が軽減される場合についてご紹介します。

先生への質問リスト

質問しておきたいことについて、事前にメモを用意して質問リストをつくって持っていきましょう。

療養生活のサポート

リンパ腫の治療には、入院治療、通院治療があります。
ご本人が安心して治療を受けられるよう、ご家族のかたのサポートが重要です。

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ご家族のかたへ

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監修:
公益財団法人慈愛会 今村総合病院 名誉院長兼臨床研究センター長、HTLV-1研究センター長
宇都宮 與(うつのみや あたえ)先生

大切な人がリンパ腫と診断されたら、ご本人だけでなく、ご家族のかたにも大きな影響を与えます。悲しみや不安を抱えるなか、さまざまな決断をしたり、初めて経験する多くの変化に対処していかなければなりません。今後の療養生活や、ご本人を支えていくうえで重要なポイントを知っておきましょう。