りんぱしゅ通信

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DLBCLの治療
(抗がん
剤・放射線)

DLBCLの治療
(抗がん
剤・放射線)

監修:
名古屋大学医学部附属病院 血液内科 講師

島田 和之(しまだ かずゆき)先生

DLBCLでは抗がん剤治療や
放射線治療を行います

初めて DLBCL と診断された場合は(初発しょはつ)、そのときの病気の状態を限局期進行期に分けて治療を進めます。いずれもR-CHOPアールチョップ療法または抗CD79b抗体薬物複合体併用R-CHP療法という複数の抗がん剤を組み合わせた治療が標準治療になっています。

日本血液学会 編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 5 びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」

限局期の場合

限局期では、10cmを超えるような大きな病変がない場合は、R-CHOP療法を3コース繰り返したのち病変部位に対する放射線療法 を行うことがあります。全身療法である抗がん剤治療の回数を抑えることにより副作用を軽減するねらいがあります。

一方、放射線治療ができない場合(首や若い女性の乳房などの病変で、治療効果よりも副作用が心配される場合など)や大きな病変がある場合は、R-CHOP療法または抗CD79b抗体薬物複合体併用R-CHP療法を行います。

R-CHOP療法または抗CD79b抗体薬物複合体併用R-CHP療法のみを行うか放射線治療を組み合わせるかは、病変部位や患者さんの年齢なども考慮して検討されます。

治療により効果が得られ、通常の検査ではがんが見られなくなったら(完全奏効かんぜんそうこうといいます)、経過観察になります。一方、がんが小さくなったものの残っている場合(部分奏効ぶ ぶん そうこうといいます)は、追加で放射線治療を行います。

進行期の場合

進行期の場合は、R-CHOP療法または抗CD79b抗体薬物複合体併用R-CHP療法が標準治療として勧められます。

完全奏効の場合、限局期の場合と同様に経過観察に入ります。再発のリスクを減らすために、治療前に大きな病変があった部位に放射線治療を行う場合もあります。

DLBCL は、リンパ節だけではなく身体のさまざまな部位から発症します。部位によっては、上記とは異なる治療方針がとられることがあります。

脳・脊髄・眼(中枢神経)で発症した場合
お薬のなかには、脳、脊髄、眼といった中枢神経に届きやすい薬と届きにくい薬があります。そのため、中枢神経に生じたDLBCLの場合は、中枢神経に届きやすい抗がん剤による治療を行ったのち、放射線治療を行います。放射線治療の代わりに、自家造血幹細胞移植と大量化学療法の併用による治療を行うこともあります。

精巣で発症した場合
精巣のDLBCLの場合は、中枢神経やもう一方の睾丸に病気が広がりやすいことが知られています。そのため、R-CHOP療法に加え、髄注ずいちゅうといって背骨の中(脊髄腔せきずいくう)に抗がん剤を注入したり、もう一方の睾丸に放射線治療を行います。

左右の肺の間(縦隔じゅうかく)で発症した場合
縦隔で発症した場合は、R-CHOP療法のほかに治療効果が高いと考えられる抗がん剤治療があり、治療の選択肢となっています。

日本血液学会編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 5. びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」

初回治療がうまくいかない場合や再発した場合

再発とは、治療によりがんがほぼ消えたり小さくなったりした後に、再び活動性が生じることです。初回治療で効果が得られなかったり再発した場合は、自家造血幹細胞移植じかぞうけつかんさいぼういしょく(後述)と大量化学療法の併用が考慮されます。

再発の時期や患者さんの状態などによりCAR-T細胞療法も治療選択肢のひとつになります。

自家造血幹細胞移植と大量化学療法の併用が実施できる患者さんでは、化学療法でがん細胞を減らした後に移植を行います。

自家造血幹細胞移植と大量化学療法の併用は身体への負担もある治療法なので、実施が難しい場合は救援化学療法きゅうえん か がく りょうほうのみを行います。放射線治療が選択される場合もあります。

救援化学療法として使用する薬は複数あり、どの薬を使用するのが良いかは病状により異なります。さまざまな化学療法があり、患者さんの状態などを考慮して決められます。

DLBCLに対する治療は盛んに研究が行われており、臨床試験りん しょう し けんに参加するのも選択肢のひとつです。

日本血液学会編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 5. びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」より参考・参照
神田善伸 監:ウルトラ図解 血液がん, 法研, p84, 2020

先生からのメッセージ

私の受けている治療は標準治療と違います。なぜでしょうか?

DLBCLは、いわゆる標準治療が推奨されています。標準治療とは、「科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者さんに行われることが推奨される治療」です
※国立がん研究センター がん情報サービス:
https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/
hyojunchiryo.html

 “科学的根拠に基づく”治療とは、年齢や身体の状態などが一定の条件に当てはまる患者さんを対象に臨床試験と呼ばれる研究を行い、治療法を比較するなどして、多くの患者さんでより良い効果が得られたものです。
 最良の治療であれば、誰しもその治療を受けたいと思いますが、標準治療が全ての患者さんに適しているとは限りません。
 一方、実際には、病気の状態や身体の状態、さらには入院できるかどうかといった生活状況は患者さんによって異なります。そのため、主治医はそれぞれの患者さんごとに最適な治療法を考えます。ですから標準治療とは違う治療が行われる場合もあるのです。
 また、標準治療は必ずしも新しい薬剤や最先端の治療法であるとは限りません。最新の治療は、まだ十分に科学的な根拠があるとは言えない場合もあるためです。研究が進み、新しい治療が十分に確立すれば、「標準治療」は変わることがあります。
 自分の受ける治療が他の人と違うと、心配に思うこともあるかもしれません。治療に関して不安や疑問があるときは、遠慮せず主治医に聞いてみましょう。

名古屋大学医学部附属病院
血液内科 講師
島田 和之先生

①DLBCLで行われる抗がん剤治療

DLBCLでは、R-CHOP療法が行われます。R-CHOP療法は、分子標的薬ぶん し ひょうてきやくという新しいタイプの薬を用いた薬物療法です。分子標的薬とは、がん細胞がもつ特定のタンパク質を狙い撃ちにするお薬です。分子標的薬の登場により、DLBCLは予後が改善しています。抗CD79b抗体薬物複合体併用R-CHP療法ではR-CHOP 療法の抗がん剤のひとつを分子標的薬に置き換えた治療です。

R-CHOP療法では、分子標的薬のほか、アルキル化剤ステロイド薬など4種類の抗がん剤を組み合わせて治療を行います。また、抗CD79b抗体薬物複合体併用R-CHP療法では2種の分子標的薬とアルキル化剤やステロイド薬の4種類を組み合わせています。

高齢の患者さんや、もともと健康状態がよくない患者さんで、副作用が出やすく、治療に耐えられないと考えられる場合は、薬の量を減らしたり副作用が少ない薬を使用したりします。

日本血液学会 編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 5 びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」
神田善伸 監:ウルトラ図解 血液がん, 法研, p122, 2020
飛内賢正 監:血液のがん 悪性リンパ腫・白血病・多発性骨髄腫, 講談社, p37, p54, 2015

R-CHOP 療法や抗CD79b抗体薬物複合体併用R-CHP療法の主な副作用

R-CHOP 療法や抗CD79b抗体薬物複合体併用R-CHP療法では副作用があらわれることがあります。

抗がん剤治療はがん細胞を減らすために実施しますが、正常な血液細胞も一時的に減少します。このような副作用を骨髄抑制といいます。骨髄抑制が生じると、白血球の減少で感染症にかかりやすくなったり、血小板の減少で出血しやすくなります。

副作用が発現するかどうか、またその強さやあらわれる時期は患者さんによって異なります。抗がん剤治療を行う際には、副作用に対する予防や治療を並行して行います。

②放射線治療

放射線治療は、身体の外からがんがある部位に放射線をあて、DNAを傷つけることによりがん細胞を破壊する治療法です。がんの広がりが限定されている場合に効果的です。

初発で大きな病変がない限局期DLBCLでは、抗がん剤治療の後に病変部位への放射線治療を行うことがあります。

飛内賢正 監:血液のがん 悪性リンパ腫・白血病・多発性骨髄腫, 講談社 , p34, 2015より作図

放射線照射の頻度や回数は病気の状態によって異なりますが、外来での治療が可能で4〜5週間程度通院します。副作用としては、疲労感や皮膚の症状などがあらわれる場合があります。

日本血液学会編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版,2023
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 5. びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」
飛内賢正 監:血液のがん 悪性リンパ腫・白血病・多発性骨髄腫, 講談社, p35, 2015

③CAR-T細胞療法

CAR-T細胞療法(キメラ抗原受容体発現T細胞輸注療法)は患者さんの免疫細胞の一種であるT細胞をとり出し、がんを攻撃する能力を高めるように遺伝子操作して体内にもどすがん免疫療法のひとつです。

DLBCLでは初回化学療法を行っても効果が得られなかったり、1年以内に病気が進行した場合などに、CD19を標的にしたCAR-T細胞療法が行われることがあります。CAR-T細胞療法では、サイトカイン放出症候群や神経毒性といった特徴的な副作用がみとめられる場合があります。

サイトカイン放出症候群は治療初期に発熱、低血圧や様々な神経症状を引き起こし、ときにサイトカインストームという重篤な反応から多臓器不全に陥ることが報告されています。

日本血液学会編:造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版,2023
「第Ⅱ章リンパ腫 Ⅱリンパ腫 5.びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」
日本臨床腫瘍学会 編:がん免疫療法ガイドライン 第3版,2023
再生医療学会:再生医療ポータルhttps://saiseiiryo.jp/keywords/detail/car-t.html[2023年9月閲覧]

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公益財団法人慈愛会 今村総合病院 名誉院長兼臨床研究センター長、HTLV-1研究センター長
宇都宮 與(うつのみや あたえ)先生

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